神戸徳洲会病院院長 冨田 雅史


もうとっくに不惑をすぎてやはり人生に迷い続ける私は、多くの同年代の人と同様に「近くが見えない病」という不治の病にかかってしまって本当に困っているわけですが、なにぶん外科なんて仕事を本業としているだけにピントが合わないことほどつらいことはありません。今まで見えていたものが、思うように見えなくなるというのは本当に強い喪失感があります。

というわけで、遠近両用とパソコン画面用と読書用と三つのメガネを使い分け、さらに手術室に行けばサージカルルーペと腹腔鏡用メガネを使い分ける状況です。きっと心の奥底ではそうやって視力の喪失感を埋め合わせているのかも知れません。

色覚異常の人たちは、いろいろなタイプがありますが、比較的頻度が高いのは緑色と赤色の区別がつきにくくなる2色覚の人たちで、この人たちが特定の色調の光をカットする色覚補正メガネをかけると二色の世界からはっきり色が区別できるようになります。このメガネは昔からあるようですが、ここ10年ぐらいで見えやすさが大きく進歩したようです。初めて色覚補正メガネをかけて色の違いをみた色覚異常の人たちの動画が、youtubeなどの動画サイトにたくさんアップされています。

動画はこちら

「空の色がこんなにたくさんの色をしているなんて」、「こんなのみたことないよ」そう言って感激のあまり涙をながす人たちが多数います。 本当に何気ない普段の景色がカラフルにみえるだけで、こんなにも感動するものかと見ているこちらまでもらい泣きしそうな動画でした。日本人の体験談にはすき家の看板が鮮やかに赤いことに気づいて「すき家の牛丼がおいしそうに見える」なんて話もありました。
コメントにもありましたけど、ふだん何気なく見ているその色がそんなにも美しいものだなんて私たちは全く気づいていません。失った調節力を嘆くよりは、自分が見ている色の美しさを思い出す方が大事な事かもしれないと思った動画でした。

このコラムを書いた医師


神戸徳洲会病院院長 冨田 雅史